フィンテックのフル活用を1社が実現する日

2018年2月25日 日曜日

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りそな銀行は、2018年秋に、クレジットカードやデビットカードといったキャッシュレス決済をひとまとめにして管理できるサービスを始める。スマートフォン上で管理でいるアプリを提供する。QRコードを読み取って、銀行口座から直接引き落とされる決済サービスも始める。横浜銀行と連携し加盟店で相互理容できるようにし、決済の利便性を高める。
ーー2018年2月23日朝刊 日経新聞より抜粋ーー

銀行は個人や企業から預金という形式でお金を集め、個人や企業にお金を貸す機関です。銀行の機能は、預金勘定で、これが金融の仲介機能、信用の創造機能、そして決済機能を生み出します。

仲介機能は、お金を借りたい人とお金を貸したい人を仲介することです。銀行が間に入ることで借り手と貸し手をマッチングさせ、スムーズに貸し借りが行えます。

信用創造は、預金を持つ銀行が果たす役割そのもので、預金の一部を現金で手元に残し、残りを貸し出します。個人や企業に貸し出したお金は企業や個人に支払われます。そして企業や個人から再び銀行に預金されます。これらの活動が繰り返されることで、預金通貨というお金が新しく生み出されます。銀行全体の預金残高が次々に増えていくのです。

企業や個人は銀行の預金口座を利用することで現金を使わないで口座振替で送金や支払いなどができます。これが決済機能です。

銀行は主にこの3つ、金融の仲介機能、信用の創造機能、決済機能をを持ち、信用のある安全な銀行には預金が集まり、豊富な資金が確保される仕組みを持つのです。

りそな銀行の記事は、3つ目の決済機能をスマフォを使って行う取り組みです。では、今後、他の機能である信用創造や仲介機能まで、スマフォ一本で完結できるようになるのでしょうか。

例えば、預金や振込などの窓口業務がスマフォアプリを介して、バーチャルで出来るようになると便利です。融資や為替業務も、そのデータを活用してAIが自動的に個々人の信用履歴から金利などの条件を提示することは理論上可能です。また、預金のお金は自動売買のアルゴリズムを活用して元本を維持しながら安全に取引して運用することで、金利が今以上につく仕組みも提供できるはずです。となると銀行の信託業務も管理や運用に加えて、遺言信託や相続対策などのアドバイスもAIを活用して置き換えられないでしょうか。

このように考えると、スマフォを活用することを皮切りに、銀行の業務がゼロから見直される可能性が出て来るのです。かのビル・ゲイツはかつて、”Banking is necessary, but banks are not.”と言っていましたが、金融と技術(フィンテック=Finance+Technology)が結びつくことで既存の金融サービスを代替する仕組みが生まれてきてもおかしく無いのです。

現在、世界ではすごいスピードでフィンテックが広がっています。スマフォやAIやビックデータというキーワードを毎日聞きまよねす。更に世の中を騒がせる仮想通貨もあります。しかし、その本質は中央管理の手法から分散型の管理が安価で安全に出来るブロックチェーンの技術が現実化されたことです。ブロックチェーンの技術はすごく大雑把に言えば、様々な取引に関わる参加者が取引の記録を共有して確かさを互いに検証する仕組みです。

現在、日本の金融機関は振込等の銀行から送られてきた為替取引に関するデータは全銀システムのコンピューターでリアルタイム処理され受取人の取引銀行宛に送信されます。これと同時に全銀システムでは銀行からの支払指示を計算して各銀行毎に算出した受払差額を一日の業務終了後に日本銀行に対してオンラインで送信しています(※1)。

これら中央管理型の仕組みだとメインフレームコンピューターが必要になり、最もセキュリティが高いシステムを構築する必要があります。従って大規模なデータセンタとなり維持管理コストが莫大なものになっていると想像します。また、業務終了後に日銀に対してオンライン送信をしているため、銀行の業務は9時から15時までと限定的で週末は停止されサービスを利用することが出来ません。全銀システムは国内の金融機関で運用しているので急に自分たちだけがブロックチェーンの技術を使って同様のことを実現しようと思っても塩梅が悪いのです。

ちなみにブロックチェーンを使えば、ネット経由で送金コストがかからず、システム維持コストも安く済みます。またデータ改ざんは技術的に難しくほぼ不可能です。何よりも24時間365日利用することができます。つまり、ブロックチェーンの技術は既存の金融機関には諸刃の剣とも考えられるのです。

そうは言っても、個人は変化します。ミレニアム世代を中心にスマフォを主流とする購買活動が生まれます。クレジットカードの信用が得られない人々も世界中には一定数います。新興国や途上国に目を向ければ銀行口座を持たない成人は20億人以上もいて、資金が得られない新興国の中小企業も2億社以上あると言われます(※2)。

フィンテックが進み、キャッシュレス決済が広がれば、ライフスタイルも劇的に変化するでしょう。一方で、小売や流通サービスがシャアリングエコノミーで変わったように、根本的な金融のビジネスモデルも変革点を迎えていると思います。ともすれば、スマホの普及は従来金融サービスを受けれなかった個人や企業が受けられる可能性が拡大することを意味します。また、それを提供するのは既存の金融機関と異なるプレーヤーかもしれません。

中国を例に取って考えてみましょう。従来から銀行システムやクレジットカードがあまり発展していなかった背景から、独自のモバイル決済の普及が加速しました。代表的なアリペイやウィーチャットペイは今回のりそなが進める取り組みを数年前から実現しています。QRコードを支払い接点に置き、精算や決済においてはデビット方式、つまり銀行即時決済という手段をとりました。QRの読み取りはスマフォ同士でも出来るため、機材設置コストや人手が不要なため、決済手数料は0.6%程度でも成り立っています。

一方、アメリカや日本の場合勝手が違います。新しいテクノロジーがなかった頃に、ATMや銀行の窓口やクレジットカードの仕組みが充実していて、不便がない仕組みとして発展してきました。従って支払い接点も様々です。QRコードは近年の最新として、ICカードでのタッチ、クレジットカード、電子マネーやアプリによる決済等々です。精算や決済もクレジットやデビット、電子マネーや口座引き落としと様々な手法があります。アップルペイやスクエアなどがはピット便利ですが、ベースはクレジットカードです。間に金融サービス会社やクレジットカード会社が介在するために、どうしても手数料が高くなります。また全ての機械はスマフォと違い、企業が事前にそれなりの投資が必要な仕組みです。

一方中国の金融事業の進化は非常にユーザーセントリックな仕組みになっています。例えば、アリババ・グループのアリペイはスマフォを介した様々な個々人の決済データを駆使して、個人の信用や企業の与信評価をAIとビックデータを活用して実現しています。融資申請が3分程度で、AI融資の判断は1秒、その瞬間にお金が振り込まれる仕組みを実現しています。それらはスマフォのみで出来るため、まさに人手がかからないスマートな枠組みと言えるでしょう。

個人や企業はアリペイを使う際は、アリペイ口座に決済用の資金を事前に置きます。その残高よりも安い決済であれば、即座にその金額がブロックされ引き落とされるのでリスクはありません。また、決済用の資金で使っていないお金に対しては世界最大規模のMMFを活用して4%程度の利回りをつける蓄財サービスまで提供しています。となると実質的に銀行の3大業務を行っているとも言えるのです。

同様の仕組みは、テンセントが行うウィーチャットペイでも実現されています。現在アリペイのユーザーが4.5億人、ウィーチャットペイのユーザーが8億人ということを考えると、日本以上の人口規模がスマフォだけでの金融サービスを受けていることが分かります。

リスク面に対しての懸念もあるでしょうが、スマフォには生体認証(顔認証や声紋認証等)が付いているので、暗証番号だけで管理する銀行のATMよりも遥かに安全と言えるかもしれません。このような結果、中国では無人コンビニや無人スーパー、或いは様々なシャリングエコノミーがどの先進国よりも進んでいます。スマフォさえあればキャッシュレスでサービスを利用することが出来るからです。

りそな銀行は決済機能をスマフォで行うことはできるでしょうが、他の機能に取り組むことができたとしたら、他の金融機関は不要になることを意味しますよね。

12億の人民を抱える中国がわずか2社の参加にある金融サービスで、しかもわずかここ数年でキャッシュレス決済が実現できるようになりました。背景は、銀行が個人に対して厳しかったこと、数が少なかったこと、ATMが少なかったことがあります。そしてクレジットカードの普及も遅かった。しかし日本はそれらが充実していて何の不便もありません。

分散型のブロックチェーンを用いて取引情報を管理した場合、全銀システムの存在をある意味ひっくり返すことになります。ここは慎重な判断をする必要があります。また、3つの機能が互いに有機的に活用される仕組みではありません。未だに口座に預けているお金の動きから個人の信用を判断する取り組みが行われていません。従って、個人の信用は属性の平均的な信用を活用して数日経ってからの審査でようやく利回りが確定されます。信用の低い一部の人にかかるコストを普通の人や信用が高い人が代わりに支払っている世界をしばらく継続しなければならないのです。そう考えると日本の金融システムはそう簡単に変わることは無いですよね。

では、テンセントやアリババは今後どのような動きをするでしょうか。新興国や途上国で同じようなサービスを展開するのは用意です。スマフォの普及率は高いです。個人がアプリをダウンロードして、指定口座に決済用の資金を預けると、その日から直ぐに使えます。しかも個人の信用はアリペイやウィーチャットペイの使い方で決まるので身分や属性から完全に開放されます。数の理論からすると、こちらの仕組みが人類のスタンダードになるのとの予測、あながち間違いでは無いですね。

銀行にいかなくて良い。自分の普段のお金の使い方から自分の信用がきまる合理的な仕組み。取引コストも非常にリーゾナブルで、預金の利回りが高くなる。送金も決済コストも安い。もし、そのような金融機関がある日ダウンロードできるようになったら。もちろん様々なハードルはあるでしょうが、日本の金融機関は確実に大きな転換期を迎えているのです。


※1:全国銀行資金決済ネットワークのWeb参照
※2:日本銀行「決済システムレポート・フィンテック特集号・金融イノベーションとフィンテック」2018年2月号参照



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