顧客のニーズではなく、行動に注目する

2017年8月18日 金曜日

早嶋です。

マーケティングにおいて、結局のところ顧客のことは顧客に聞くのが最も手っ取り早いが、一方で、そこには落とし穴がある。商品の満足度や改善意見を聞く時に私が心がけることは、顧客の改善意見に耳を傾けることではなく、行動や認識した内容などの事実に着目することだ。

例えば、あるクライアントのコンセプトを体現するツールのフィードバックをユーザーを交えて行っていた。顧客いわく、「この商品のイメージだったらもっとおとなしい感じが合うと思う。」「こちらのユーザーガイドはカラーで表現したほうがより分かりやすくなると思う。」等々。これらは明らかに事実ではなく、顧客の改善意見なので全てを鵜呑みにすると企業の存在意義そのものが疑問だ。

事実とは、例えば、「サービスセンターに連絡したことがあるか?」についての答えとか、「電話対応が冗長でたらい回しにされた」というような実際の顧客の行動に対しての感想だ。従って、グループインタビューや定性調査で着目する場合、将来に対しての希望ではなく、過去から現在において顧客が実際に行動を伴った結果、何が起きたか?に着目することだ。

クライアントの多くは、顧客のニーズや願望を聞き出すことに重きを置いていた。そして、極端な企業は、その内容を鵜呑みにして企画や開発をすすめていた。実際、先の顧客の事例でユーザーガイドをカラーにしている例もあった。一見、顧客の意見は正しいと感じるだろうが、しかし顧客に正解を求めるのは企業としていかがなものか。もし、この手法でヒット商品が続出すると、それはそれで簡単だ。

が、実際はそう甘くはない。事実、複数の収益性分析や優良顧客調査の結果とユーザーガイドの変更は何の相関性も見いだせなかった。コストはかけたが、その効果は無かったのだ。

昨今、Webやテクノロジーの進化により、情報が溢れている。結果、ユーザーも多様化し、企業が抱えている課題も複雑さを増す。それに対して顧客の意見に頼り、差別化や独自性を出すというのはどうも筋が通らない。従って、企業はこれまで以上に顧客の意見から顧客の行動、そこから見いだせる結果、事実データを整理した高猿に力を注ぐ必要があると思う。

人間は大いにして、自分の考えを正しく言語化することに慣れていない。仮に出来ても、ちょっとした前後の感情やイベントによってその内容がコロコロ変わる。もし言語化できたとしても、その通り行動するとは限らない。これらは近年の行動経済学で如実に、そして次々に証明されている。

た追えば、急に、「いま何が一番欲しいですか?」とか、「何を一番食べたいですか?」とか、「どこにいきたいですか?」などと問われてしまっても、答えに窮すると思う。また、「なんで、その商品を手に取ったのですか?」などと聞かれても、その理由を正しく解釈し、正しく相手に伝えるコミュニケーション能力を持つ顧客はかなり少ないだろう。

人間はそもそも自分の行動や動機を常に言葉で認識しているわけではないから、短刀直入に聞かれても困るのだ。従って、マーケターはこれを理解し、顧客に意見を直接聴く手法や、他の代替的な手段も合わせて分析することを念頭に行動した方が良い。

有名な事例がある。「このサイトは、支払い手数料が不明で見つけにくい。わざと隠しているのではないか?」とか、「使用方法を動画で説明して欲しい」などの発言がある。実際、この手のニーズを解消してみても、Webサイトからの売上が変化することは稀だ。「送料は分かったけど、商品が探しにくい」とか、「分かり易いが商品が高いからこのサイトでは買わない」という結果になるのがオチだ。

結局は、上手く言葉にできても、その言葉通り顧客は行動しないのだ。実際は想定していた予算と大きく商品の値段が異なり、買いたいけど手がでないのだ。しかし、それを表現するのは、なんとなく恥ずかしいと思うのだろう。逆に、正当化するために、上記のようなことを言語化しているのだ。動画でという発言も、自分の理解力の低さを露呈することになるので、それに対しての抵抗ということも考える事ができる。しかも、そのような発言を意図的に行ったか否かは本人にもわからないといのだ。

従って、ここではニーズとして取るのではなく、単に、「取引しなかった」「情報が理解できなかった」という事実として受け止めることが正解だ。

ある書籍で読んだ内容だ。マーケターがスーパーの入り口で顧客に対してランダムに「今日は何を買いますか?」と問い、答えた内容と実際に購買した内容を比較する調査を行った。結果、3割以下しか事前に告知した商品と合致していなかったのだ。顧客はスーパーを徘徊し、物色するうちに、アレヤコレヤと思考して、或いは無意識に商品を手にとってカゴに入れているのだ。

定性的な調査を行う場合は、顧客のニーズや将来の要望について、耳を傾けるのではなく、あくまで行動の結果やそこで感じた事実にフォーカスする。理由は顧客は案外と言語化できないし、仮に言語化できても、その内容と行動が伴わないことがしばしばあるからだ。



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