ハードブレグジット

2017年4月19日 水曜日

早嶋です。

今朝の日経に英国のメイ首相の緊急声明に関する記事がありました。

ーー日本経済新聞2017年4月19日朝刊抜粋ーー
英国のメイ首相は18日、緊急声明を発表し、下院を解散して6月8日に総選挙を実施する意向を明らかにした。メイ氏は欧州連合(EU)との離脱交渉を巡り「現政府を支持するか民意を問い、より安定した政権をつくる」と強調。EU単一市場から完全撤退するといった「強硬離脱(ハードブレグジット)」方針への支持を訴えた。
ーー抜粋終了ーー

声明では、18日の閣議で2020年予定だった総選挙を前倒しし、19日にメイ首相は承認を求めます。最大野党の労働党のコービン党首も総選挙を歓迎する考えを表明しています。おそらく議会は賛成多数で承認するでしょう。

声明では英国政府の離脱戦略を強調していましたが、いくつか疑問があります。そもそも離脱したい背景は、これ以上移民や難民を受入たくないというのが本音でしょう。欧州ではシリアやイラク、北アフリカから難民を受入れる問題があります。

英国は社会保障の手厚さから難民にとって人気です。正式な手続きを踏めれば難民と認められ、福祉手当(金銭)と無料で医療施設が利用でき、住居が与えられます。当然、難民間では英国は最高だとなり戦時国のみならず、中国からの難民も年々増加しています。

EU加盟国は難民受入を拒否できない法律があり、移民に関しても特別な理由がない限り否めません。従って、英国が移民や難民の受入を拒否、或いは制限するためにはEUの離脱が必要になるのです。

国民はEU離脱に賛成しています。理由は、このまま受入を続けていけば、国民の税負担が更に重たくなるからです。難民の衣食住の費用負担は当然税金です。財政が弱含む英国にとって自国の税金を難民や移民の受け入れ費用に充てることそのものに国民の不満が高まっているのです。これは当然理解できることです。

また、難民の受入は仕事の取り合い、治安の悪化を招くと国民は考えています。英国からすると税金も取られ、仕事も取られ、治安も悪化する。まさに、たまらないという発想なのです。

では、実際に英国がEUから離脱したらどうなるのか。メイ首相が離脱戦略を明確に持っているという点について疑問なのが、仮に離脱したらどうなるのか?というシミュレーションが明らかに不足しているという点です。

仮に離脱が決定したら最も大きな影響は、欧州の中枢マーケットとしての地位陥落です。ロンドンが金融市場から見放されます。現在、世界の3大マーケットはニューヨーク、上海、ロンドンです。この3つの市場が地理的に分散されているため24時間連続的な取引が可能です。

そしてロンドンに拠点を置いている金融機関は英国がEUに加盟しているため、他の27カ国にも個別に許認可を得ずとも自由にビジネスが行なえます。しかしEU離脱後、他のEUの国々との取引がこれまで通り自由にできなくなる可能性があります。

これは金融に関する縛りだけではありません。商業、労働法、医療、環境やエネルギー、製造物への責任体制、通信、航空法や宇宙開発、ビジネスで紛争が起きた際の取り決め、会社法、公共セクターに対しての入札、税法、ITの発展によるデータ保護の取り決め、サイバーセキュリティーに対してのルール、企業間の競争に関しての取り決め、地底財産など凡そ20,000程度のルールや決まりごとを全てオールリセットして決めなければならないのです。

離脱すると確かに、国民の税はこれまで通りで良いでしょうが、その母体となる英国の基盤自体が脆弱になることが予測されます。結果、英国がEUを離脱すると英国の信用力は低下するでしょう。信用力の低下は英国の通過であるポンドの価値下落につながります。今日現在で139円ですが2015年8月の190円台をピークにどんどん下がっています。結果、英国は他の国と取引をする時の購買力が弱くなることから英国の景気悪化につながるのです。

現在、日本企業で英国に進出している企業は900社弱あるようです。EUではドイツに次いで2位の企業数です。また、日本の対英国直接投資は1.7兆円で米国に次ぐ世界2位の金額規模です。つまりイギリスの景気悪化は我が国日本にも何らかの影響があるといえるでしょう。

英国の国民に取って、今回の状況はどちらを選んでもいばらの道で、にっちもさっちもいかないということだと思います。



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