日本のメーカーで観察される過去から将来

2015年2月25日 水曜日

早嶋です。超長文(5000字程度)です。

日本のメーカーがなぜ近年急激に力を失っているのかという点をざっくばらんに考察。早嶋の私見もふんだんに入れていますので、そのつもりでお読みください。

日本メーカーは元々から技術部門や研究分と製造部門がとても強かったです。当初、多くのメーカーは機能部制を取ってきており、技術部門や製造部門というようなくくりで企業を分けマネジメントを行っていました。そのため技術や製造のトップは会社のボードメンバーでもあり、社内に対しての声も比較的強かったと思います。

1980年代は、今のように情報の流れや物流が整っているわけではなかったので、ポーターが提唱したように全てのバリューチェーンを自社で抱えることが競争優位を見いだす一つのポイントでした。従って、当時成長遂げていた大きな企業ほど、すべてのVCを自社でかかえ揃えていきました。

しかし日本の成長は90年頃をピークに徐々に減少に向かい始めます。人口が減り始め、生産年齢人口が少なくなり、お金を持っているそうである高齢化が将来に対する漠然として不安のため、お金をセイーブし始めたのです。ちまたでは失われた20年と言われますが、その間、技術や製造を重視するマインドは大きく変わりません。あいかわらず製造方法やや技術の向上を唯一の成長の一助とみなし資源を注ぎます。従って、世の中の大きな構造変化に対してあまり注視されることはありません。

2000年頃から始まるIT革命に対しても、技術を強化するためのIT、製造を強化するためのITという認識での導入が強く、バリューチェーンやサプライチェーンの再変遷という大きなビジネスモデルそのものを見直すという取り組みが遅れました。ERPなど全社を統合するパッケージも言葉として出て来ていましたが、部門間の壁や事業部間の壁が高く、導入して十分な成果を出した企業は少なかったのです。その背景にもやはり製造や技術の人間が強く、全社的な視野が狭く、発想自体が部分最適になっていたこともあったのでしょう。

そんな中、開発と企画と販売マーケティングを自社で行い、製造は大手のEMSに託すというような企業が出現します。あるいは、製造だけを請け負う企業。販売やアフターサービスだけに集中する企業など、従来のVC全てを1社で行うのではなく、そのなかでもっとも得意な部分に絞ってビジネスを行う企業が徐々に増えてきます。1980年代の情報の流れと物流に対しての摩擦が緩和され、自由に企業間を超えたやり取りができるようになったからです。

当時の日本企業はまだメーカー主体でした。ですから製造と工場を抱えてなんぼの企業という考えが暗黙的になされていました。しかし、製造量が減少して工場の稼働率が低下することで利益率が悪化します。また、元々からオーバースペックぎみの開発コンセプトだったため、顧客や市場にフォーカスするよりも技術を優先する動きが無意識に定着していたため、競合する海外のメーカーよりも利益率が低状態が継続していました。更に、技術で何でも出来るが故に顧客の要望に応えすぎるあまり、都度開発して都度製品化を繰り返していました。海外は技術がついていかない部分もあったのか、毎回ゼロから要望を聞くのではなく、ある程度できた技術を活用して、汎用性を高めることにフォーカスします。従って顧客にはその汎用性の中での提案を受け入れるようになったのです。結果的にソリューションを含めた商品の標準化が進むことになり、高い利益率を確保できる仕組みが生まれていました。

この日本のメーカと海外企業のメーカーの利益率の違いは明瞭です。利益率の違いは、株価の違いに反映され、高い株価を得た企業は、自社にとって将来的に脅威になるビジネスに対して先行的に投資して、自らの仲間にしていくことを覚えます。また、ゼロから開発するという従来の方法に加えて、既に確立されている技術に資本を入れて時間とノウハウを買うM&Aを積極的に戦略の選択しに取り入れました。企業の成長が飛躍的に高まり、ますます効率的な仕組みができるようになってきました。

ビジネスの理論にイノベーターのジレンマがあります。気がつかないうちに、メインストリームの技術や商品コンセプトが全く違った技術や商品コンセプトに置き換わる現象です。企業の規模が大きすぎて、イノベーションの存在は認識しているのですが、部門最適になっていた企業の意思決定の遅れにより、業界では無名の企業がそのイノベーションを武器に徐々に市場のシェアを奪い始めます。当時小さいイノベーションが本当に将来に大きな市場となり、既存の市場をひっくり返す可能性があることを数字で予測することができない。従って、大企業は様々なステークホルダーに対してそのことを示すことができない。走行するうちに意思決定がおくれるのです。また、大企業は自分たちの規模感にあった市場でないと十分な収益を生むことが出来ないと考えるため、既存のメインストリームにフォーカスして、将来自分たちを崩壊に導くであろう可能性に目をつぶってしまうのです。そしてそのイノベーションが徐々に市場に導入されて、数字の予測がシュアになること、つまりようやく大企業が本腰を入れたときは既に時遅しでフォローワーになることもできず、業界もろともシュリンクしていくのです。

更に、メーカーにとっての常識が大きく変わりました。一つは、シェアという概念です。メーカーのこれまでの発想では、自分たちで作った技術は自分たちでクローズにして、それを飯の種にして儲ることでした。しかしシェアの発想がソフトウェアの世界に定着してオープンソースという概念が生まれました。皆でどんどん新しい考え方や技術を共有することで、いいものを加速度的に良くしていこうという発想です。新しい技術はつねに公開されます。興味のある技術者はその技術にアクセスして実際の動きや概念をためします。そして、その技術の進歩に対して非営利のコミュニティーができて、日夜議論が繰り広げられます。仮にその技術にバグがあれば、気がついたヒトが修正するため、一気に精度が上がっていくのです。その技術は、ネット検索によってアクセスでき、その技術の活用の仕方や理屈が記述されています。新しく何かを作る場合は、その技術をベースに作ったり、組み合わせたりすることで、ソフトウェアの生産性が一気に向上加速したのです。

当初、この動きはソフトの世界だけだと考えられていましたが、ついにハードの世界までやってきます。きっかけを作った方々は沢山いますが、イーロンマスクの事業が大企業を震撼させる存在になったのは、その動きの一部にしかすぎないと思います。

製造業の競争のルールを変える技術に3D技術があります。例えば、機械式時計などをスキャンします。MRIのように何枚も輪切りにすることができるとします。そして、その輪切りの図をミクロン単位の薄いシートとみなして重ねていきます。すると理屈の世界では全く同じ機構が即座にコピーすることができるのです。例えば、従来のように大量生産をする場合は、部品の型をとって鋳造した部品に材料を流し込んで生産する技術がコスト的にも優位でしょう。しかし、テスト的に部品を開発する場合に、このやり方を取ってしまえば、どうしても一つの部品あたりのコストが高くなります。毎回毎回、部品をつくるために型を削って鋳造しているからです。そこで、もともと3Dデータで設計した図面ですから、それをそのまま3Dプリンターに接続して部品を出力するという発想が出て来たのです。従って、開発にかかる時間とコストが一気に安くなります。これによって、資本の大小に関わらずアイデアや企画をできる小企業が一気にメーカーに参入してくる時代がやってきたのです。しかも彼らはそれが良いものとして出来上がると自前の工場を持たずに、EMSになげ、販路が無いときはアマゾンやイーベイを使って販売するものですから規模は小さいにしろ大企業からすると目障りな存在になったのです。

大企業がこの動きが出来ないのが、開発は同じ仕組みで出来ても、頭が固い組織や、これまでの品質管理のルールから、オープンになっている技術が社内の品質管理マニュアルでクリアになっているのかということで都度都度ゼロから技術を作らざるを得ない仕組みを作ったことです。そしてその考え方は特に日本企業や日本の規制ではネガティブに反映されている場合がおおいです。ソフトウェアやハードウェアもそうですが、新薬や医療機器もしかりです。日本で素晴らしい技術があっても、国に申請して許可が出る間に、他の国の許可が先にでるため技術を商品に転換できない苦労があります。

日本での大型のソフトウェア開発もにたような制約と苦しみを持ち自ら首を絞めている部分があります。製造で培った品質管理のルールがベースなので近年のオープンソースやシェアの発想がなかなかありません。従って全てのアルゴリズムや昨日をゼロからコーディング、開発する必要があります。ある分野では世の中3.0ぐらいのバージョンが主流になっていてもゼロから構築なので1.0くらいのバージョンしか出来上がりません。しかも自社の単価の高い社員をほぼフルフルに使っているので人件費は非常に高騰します。結果的に新しくソフトを発表しても世の中が既にバージョン4.0になっているのにバカ高い価格でバージョンは1.0というあり得ない話がありえているのです。

製造業を苦しめた要因はソフトの進展もありますが、この根本はデジタル化が加速したことでしょう。これまではヒトの手で最終調整をしなければ出来ないものが多く、その設計から施行、組み立てに至ってかなり凄腕の技が必要でした。しかし、徐々にそのノウハウが半導体と製造マシーンに置き換わります。すると、何かの製品を分解したら、チップと一部の電子部品に分かれるようになります。更に、製造マシーンも資本力があればお金で調達することができます。昔だったら同じハードを持っていても、それを活用するソフト、ヒトの手が無ければ作ることはできませんでした。が、今は部品と製造装置を購入すると、理屈の世界ではモノができてしまうのです。

スピードもトップ企業が一生懸命開発した商品も半年もしないうちに半導体に技術が集約され、そのチップが世の中に出回ります。従ってはじめから研究開発をあきらめた企業は3ヶ月から6ヶ月の遅れを計算して新商品を出すことができるようになったのです。当然、開発期間とそこに関わる資金を比較すると、数ヶ月のブランクは値下げという方法で補われます。開発や研究コストをかけていないので、その分の値段を下げても後発メーカーは利幅を取りやすくなるのです。もちろん全ての商品でこのサイクルがおこる訳ではありません。比較的技術レベルが成熟して、一般消費者からしてその違いが分からなくなった商品は起こりえる可能性が高いのです。例えば、家電製品や近年ではパソコン。そのうちスマートパッドやスマフォもコモディティとしてメーカー関係なく同じようなものになると思います。

こうなると、技術者というよりは、当初は部品と製造装置にゆだねられるわけですから国外の企業がそのような仕組みで製造部門だけを一気に引き受けるようになりEMSのような企業が出てきました。当初は彼らも部品を沢山安く仕入れて、組み立てるだけですが、世界中から組み立てや製造の依頼が殺到するようになるので、そこの分野に対しての技術が蓄積され、いつしかメーカーレベル、あるいはそれ以上の製造技術を確立するようになります。1社で1つ作っているとすると、その会社には1つの製造経験しかのこらないので技術の進歩もそれなりです。しかしEMSは100社の製造を行いますので100の経験が集まります。従って技術レベルが飛躍的に向上していくのです。近年の大きなEMSはメーカーの製造に加えて研究開発部門も持つようになり、まさにアウトソーズ先として脅威な存在になったのです。

さぁ、それでも全てを自分たちで作り、全ての技術をクローズドにして、全ての商品を自分たちでうるのか。いま、そのようといを正面から考えている企業で意思決定が出来ていない企業は、一気に取り残されて業界からいなくなる可能性もあると思います。



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