セブン銀行のビジネスモデル

2011年4月24日 日曜日

経営戦略の定石のひとつ、アンゾフモデルがあります。古典です。自分がいるポジションから拡大を考えた場合、基本は4つの方向しかありません。1)既存の市場で既存の商品で戦う。つまり浸透です。2)既存の市場で新しい商品で戦う。つまり新商品開発です。3)新規の市場で既存の商品で戦う。つまり新市場です。そして4)新規の市場で新しい商品で戦う。つまり、多角化です。

すべて、自己中心的な発想に基づいています。例えば、今の世の中基本的には新しい市場といっても、既に誰かがその市場でプレーをしています。新市場や新商品という名前が妄想を抱かせるのでしょうか?多くの場合、ブルーオーシャンは存在しません。既に運動不足の不摂生な血液のようにドロドロです。

しかし、面白い現象も観察されます。異業種競争戦略です。例えば、小売から銀行に進出したセブン銀行。セブン銀行のIRを参照すると、おおーと思います。少なくとも2010年3月期はでは成長を度派手に続けています。経常利益率を見ると34%という数字です。高収益ビジネス。なぜ、他行と比較してコレほどまでの成績の違いがあるのか?

それはビジネスモデルの違いでしょう。従来のルールでは、銀行は口座数を確保して、そこで集めた資金を他に回して利回りを稼ぐことがメインストリームでした。従って銀行は経済の血液のように例えられてきました。しかしセブン銀行は違います。本来のルールを無視して貸し出しをしません。

収益の源泉は手数料にあるからです。我々がコンビニでセブン銀行を利用すると、我々の大元の銀行がセブン銀行に手数料を支払います。セブン銀行はATMの手数料で稼いでいるのです。ではどのくらい稼いでいるのか?

数字の細かさは正確ではないでしょうが、大まかに考えます。他行からの手数料の入は、セブン銀行に150円の現金収入があります。現在、全国に1万4千件のATMが設置されています。1日あたり114回程度の利用があります。これを24時間365日で考えると、手数料は次のようになります。

 ATMの手数料=150円×114回×365日×1万4千台

セブン銀行のIRを見てわかるように、ほとんどの収益は手数料なのです。では、セブン銀行と他行は競争関係にあるのでしょうか?短期的にはNoでしょうが、長期的にはYesでしょう。

短期的に見て、セブン銀行は他行と補完関係にあります。ひとつの銀行がセブン銀行のよう利用者にとって便利の良い場所にATMを設置する場合、途方も無い投資が必要です。それだったら、全国展開しているセブン銀行に手数料を払ったほうが良いと考えるのです。自前でATMを管理するよりも外注したほうが効率が良いのです。

しかし、セブン銀行はコンビニの外にもATMを展開し始めています。今後、ATMの台数が多くなれば、セブン銀行のイニシアチブが非常に協力になってくるでしょう。こうなると長期的に脅威になる可能性が残ります。ただ、現時点ではセブン銀行にとっても最も脅威は口座数が増えることです。セブン銀行は、他行を利用する手数料で収益をまかなっていますので、セブン銀行の口座を持っている利用者がATMを使ってもその源泉が入ってきません。

他行のWinのモデルが、セブン銀行にとって悪夢になるのです。セブン銀行の理想は、管理口座がゼロで、すべて他行の利用者がセブン銀行のATMを使ってくれることです。

これまでの競争は、業界のルールで戦っていましたが、今後はセブン銀行と他行の戦いのように、ルールがまったく異なる条件での競争が始まっているのです。これは大企業の経営者としては理解しがたいことでしょう。しかし、理解出来ない経営者ほど、まったく想像していない敵に市場を奪われる結果にもなるのです。



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