居酒屋モデルと長期リゾートモデル

2010年2月22日 月曜日

病院には手術や救急などを行う急性期病院と療養を主とする慢性期病院があります。病院の収益構造からみると急性期病院は病床の回転率が極めて重要な指標になり、慢性期病院は長期滞在が主なので回転率はむしろ重要ではありません。同じ病院でも収益構造が全く異なります。

イメージを付けるために急性期病院を居酒屋に慢性期病院を滞在型リゾートに例えてみましょう。まず、人気の居酒屋を想像して下さい。人気の居酒屋は待ち行列が出来ているので、時間制限90分とか120分とか、妙にせかされた経験がありませんか?一方、滞在型リゾートホテルは人気があるからといって連泊を断られる事はありませんね。居酒屋と違って、時間制限なんてありません。

両者は明らかにビジネスモデルが異なるからです。

それぞれ一人のお客さんから収益をあげるモデルをシミュレートしてみましょう。居酒屋の場合、1人のお客さんが収益を上げるプロセスは1)初めの注文をするまで、2)初めの品が届いてから食べるまで、3)食事がすんで寛いでいる時、の3つに分かれます。

1)初めの注文をするまで
お客さんが店に入ってメニューを見ている時は収益は発生しません。注文をしてから初めて収益が発生するからです。そのため人気の居酒屋では、待ち行列のときに初めの注文をオーダーして、お客さんが席に着くなりすぐにメニューを提供しているところがあります。初めの選んでいる時間を短くして少しでも早く収益をあげさせる工夫です。

2)初めの品が届いてから食べるまで
時間当たりの収益が最大になる期間です。居酒屋にとってはまさにゴールデンタイム。お客さんが初めの品を食べ始めたら、間髪いれずに商品を机に運びます。アイドリングの時間があれば時間当たりの収益が下がるので、人気の居酒屋は速攻で出すメニューなども充実しているのはこのためです。

3)食事がすんで寛いでいる時
時間当たりの収益が一気に低下する時間帯です。だらだらとお店に居てもらって1円の収益も発生しません。むしろ、別の新しいお客さんと入れ替えた方が機会コストをロスしなくてよくなります。そのため、90分制度などして食事がすんだらすぐに帰ってもらう作戦をとっているのです。

さて冒頭の急性期病院の収益モデルも居酒屋と同じように考えられます。患者さんが運ばれてきてくるまで、手術中、術後の3つに分けて見ると、まさに手術が居酒屋のメニューと同期することが分かります。術後の検査や看護は手術にもよりますが、さほど大きな収益を発生しないです。場合によっては利益を圧迫する要因になることもあります。

従って、急性期病院の収益を最大化するには、なるべく多くの手術を行い、在院日数を極力短くすることです。居酒屋モデルとしてうまく収益を考えている病院は、手術後ある程度したところで病院の病診連携で患者さんを動かす仕組みを構築しています。何故、そのような事をするのか?居酒屋の例で考えれば一目瞭然です。

滞在型ホテルの場合はどうでしょうか?滞在期間中、収益の時間当たりの変化が殆どありませんね。チェックインしてからチェックアウトするまでほぼ一定と捉えて良いでしょう。1人のお客さんが30日連泊しても、30人のお客さんが毎日入れ替わっても、収益としては変化がないのです。そのため途中で帰って!なんて事は絶対にあり得ないのです。

その代わり空室は大きなロスです。1円も収益を生まないでコストになるからです。この理由のもと夜中のチェックインの場合、多くの場合、シングルであっても割高のダブルの部屋に1人でも泊めてくれるのです。また、仮にもっと多くの収益を発生させたいのであれば、女性限定のプランを作ってエステと組み合わせたり、結婚式などの会場を提供したり、宿泊料以外のプラスアルファを提供しているでしょう。

慢性期病院の収益モデルもおよそ長期滞在型リソーと同等に考える事ができます。もちろん手術などは居酒屋モデルの発想になりますが、原則的な収入はほぼ一定レベルです。そのため早く退院させる必要もなく長期滞在が可能になるのです。

しかしこちらも空室がコストになるので、空きが出来ないように、高いアメニティーを提供する、サービスレベルを向上するなどして患者満足度を向上する取り組みを行っています。

同じような病院ですが、居酒屋と長期滞在型のリゾートと捉えると、そのビジネスモデルがイメージしやすくなります。しかし実際のところ、慢性期の病院では術後の患者さんが長期滞在していてコストを発生するばかりか、新しく緊急に入院させたい患者さんの機会ロスまで発生させているのです。

早嶋聡史




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